2017/06/17

朝起きて最初に発した言葉は死にたい、だった。夫は横でオロオロしていた。病態が悪化しているのではと心配して、夫が病院に電話をかけ始めた。コールセンターのオペレーターだっただけあって、素晴らしく迅速、かつ美しい通話だった。私の頭の中の電話交換手も頻繁にパンクしていないで、これくらいのスキルを身につけて欲しいものである。

夫はすぐに家を出ようと言ったが、今日の私は死んでもすっぴんで外に出たくない気分だった。なので急かす夫を無視して、悠々と化粧品を顔に塗りたくった。

病院にたどり着いてから気が付いたのだが、夫に急かされたせいか私は薬の服用量を間違えてしまったことに気が付いた。まだ朝なのに、夜の分まで薬を飲んでしまっていた。どおりで身体がふわふわするはずだ。沈んでいた気分はどこへやら、私は完全にハイになっていた。

診察室に入ったあたりから記憶がない。夫が言うには今まで見たこともないくらい饒舌だったそうだ。私はしゃべるのが嫌いだ。話し相手に気を使うから。しかし同時に、私は話すのをやめられないのだった。話していないと嫌な感覚が細胞や脳髄の電話交換手達の間に駆け巡るからだ。

薬が切れて落ち着いてきた頃、処方が少し変わったことに気が付いた。どうやらその時の私では話にならなかったようで、夫を代理人として診察がされたようだ。帰り道、夫は私にジュースを買い与えてくれた。どうやら私が、ライフガードを飲みたいと駄々をこねたらしい。

本当は今日、図書館に行きたかった。早く面白くなかった本の山を返したかったから。しかし病院と反対方向な上、夫に今日は寝ていてくださいと言われてしまった。手早く寝床の支度をされ、私は半ば強引に寝かしつけられてしまった。

なので今日のブログは目が覚めた先ほどからずっと、布団の中から更新している。コンタクトを装着したまま寝てしまったので、目が乾いてしょうがない。ピントも合わなくて文字の入力にとても苦労している。

玄関からガチャガチャッと音がした。買い出しに行っていた夫が帰ってきた。しばらくすると夫は温かい紅茶を持って部屋に入ってきた。私にカップを渡したら部屋からすぐ退出しようとしたので、いつものは?と言ってみた。はいはい、そう言って夫は私の横にしゃがみながら少し上を向いた。すると彼の瞳から雲母が剥がれてきた。しかし、すぐに彼の瞬きによって薄い雲母は砕けてしまった。彼の瞳からこぼれた雲母を紅茶に入れると、透き通った紫色になった。

この雲母は私にしかみえない。朱色の鳥の大群が目の前を通り過ぎていくのも、空から黄ばんだカーテンが降りてくるのも、公園に咲いている花が噂話を始めるのも、電灯の光が毒電波を放つのも、全て私にしか見えない。

夫はきっと、私のことを壊れてしまった人間だと思っている。違う。嘘じゃない。この世界は本当にこのような有様なのだ。誰にも見えていなかったとしても、これは私がおかしいんじゃない。皆が現実を見ないふりしているだけなのだ。これが真の世界だ。早く皆、現実を受け入れて欲しい。そして私を。どうか。どうか。群れの中へ。