2017/06/13

図書館で借りた本が面白くなかった。近頃、ほぼ100%といっていいくらいハズレを引く。しかし今回は本当に酷い。全細胞が非難の声を投げつけあっているせいで、脳髄の電話交換手がパニックを起こしている。

私はは教えてほしかった。将来を忘れる一瞬を。肉体的な快感を。幸福を運ぶ物質を。21gの魂の正体を。しかしそれは叶わなかった。この本を図書館に返しに行く労力が惜しい。

そんなことを考えていたら出勤時間を過ぎていた。夫の手から弁当箱をひったくるように受け取って、慌てて家を出た。急いだだけあって、タイムカードをいつもの時間に押すことに成功した。照明と空調の電源を入れると、作業台の上が明るくなった。業務の引き継ぎ願いがのっていた。

『アクセサリーを並べる』

『並べきれなかったアクセサリーをしまう』

『大掃除の続き』

『ショーウィンドウの展示品を変える(三箇所)』

『昨晩お客様が散らかしたショールを元どおり陳列する』

『倉庫の定期整理』

『両替(40万円分)』

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一人で業務をこなさなければならない日に限って引き継ぎは多い。おいクソ店員!そう叫びながら呼び鈴を連打するお客に釣り銭を渡しながら、もう帰りたいと思った。

今夜は刺身が食べたい、と夫には伝えてある。マグロがいいとも言った。でもマグロ以外でもいいとも伝えてある。夫は何を買ってきてくれるのだろうか。

空調が効きすぎて寒いくらいの店内で、私は夕飯のことを考えながらアクセサリーを並べていた。シャンデリアが眩しい。空調から吹き出す埃っぽい風が、シャンデリアのクリアーなパーツを揺らしている。シャンデリアと空調は私の全細胞と、今夜の刺身が何になるかという賭けを始めた。

結果は全員惨敗の、つばすだった。相談の末、賭け金は全てジュースとお菓子にとなって夫の手に渡った。夫は少し驚いていたが、すぐにいつも通り微笑んだ。私は、この賭けが全員の惨敗で終わってよかったと心から思った。