2017/06/08

わたしには娘がいる。2人いる。

長女は甘やかして育てたせいか、大変なひねくれ者になってしまった。読書が趣味なので、いつも布団に寝転がりながら漫画や画集を見ている。引きこもり気質なのもあり、基本的に自室の布団から出てこない。布団から出てくるのは私が食べている物を分けて欲しい時くらいである。背が高いのを気にしているので立ち上がりたくない、というのも理由の1つなようだ。

やはり次女も甘やかして育てたのだが、あまりおかしなことにはならなかった。趣味は散歩で、よく一緒に外出しようと誘ってくる。長女と比べると大変に背が低い。でも本人は背が低いことを気にしていない。むしろ、子供服が着られると喜んでいる。しかし太ももが太いのを気にしているようで、膝小僧が見える丈の服は絶対に着たがらない。

私は娘達を愛している。しかし、夫の方が愛しいかもしれない。私の夫は壁のような人だ。ただ静かに微笑んで、私が仕事から戻るのを待っている。夫は私の娘のことをよく知らない。次女とは顔見知りだが、ただ知り合いの子だと思っている。長女に至っては存在を知ってこそいるものの、顔を合わせたことがない。

私の瞳を夫は真っ直ぐ見つめてくる。しかし彼は誰のことも見ていない。何も見ていない。こちらからも見つめ返すと時々、瞳の雲母が剥がれ落ちていくのが観察できる。悲しいのかい?辛いのかい?と聞くと、やはり彼は何も言わず微笑む。また一欠片の雲母が剥がれ落ちていく。彼の瞳から剥がれ落ちた雲母は瞬きの瞬間に重なると、上下の睫毛に押しつぶされるように砕けてしまう。私はこの砕けた雲母を紅茶に入れるのが大好きだ。

私は娘を愛している。それ以上に夫を愛している。しかし娘は夫のことを父親だとは知らない。夫も娘達を知らななければ、彼女らの父親でもない。

娘達もお互いの存在を知らない。夫と娘達は同じ壁に飾られた絵画だ。向かい側に飾られている私という彫刻だけが、3人の存在を視認できる。いつか3人を作品という壁から解放してあげたい。

愛おしい夫は私の横で寝息を立てている。娘達も隣の部屋で眠っている。遠い日の私は、そんな夢を見ていたような気がする。